前回にご紹介した同窓生の有馬自由さんが出演する扉座の次回公演予定が決まり ました。新神戸オリエンタル劇場で、来年の5月27日(木)−30日(日)に 「アゲイン−怪人二十面相の優しい夜−」と題して行われます。作・演出の横内 謙介が作り出す舞台は、笑いと涙がふんだんに散りばめられ、天性のストーリー テラーのうまさも加わって、ぐいぐいと物語世界に観客を引き込んでいくことで しょう。誰もが楽しめるエンタテイメントでありながら、ぴりっと効かせた社会 批判が隠し味となり作品を引き締めます。今回は、劇団員の他にあの近藤正臣を ゲストに迎えた豪華なキャスティングで、初夏の神戸に爽やかな風を巻き起こし ます。詳しい内容がわかりしだい、チケット発売日前にお知らせする予定ですの でお楽しみに。 |
それでは、私の小劇場体験から、これからご覧になる方のためへのちょっとした アドバイスを続けます。新聞夕刊や「ぴあ」「関西ウォーカー」「Lマガジン」 などの情報誌で、気に入った劇団なり演目を見つけたとします。その目安は、ま あ何でもいいのです。劇団名や公演名に引かれる、紹介されているストーリーに ピンと来るものがある。宝くじだって買わなきゃ当たらないわけですから、とに かく運試しに劇場まで出かけてみましょう。 |
小劇場の劇団名は個性的なものが多く、女優ばかりの「猫のお尻」とか名前通り 全編走り回る「ランニングシアターダッシュ」とか肉体で宇宙まで表現する「惑 星ピスタチオ」とか、劇団名だけで楽しくなるものがあります。これは、東京の 劇団ですが「カムカムミニキーナ」「猫ニャー」などは、劇団名からして人を 食っています。その馬鹿馬鹿しさに付き合うと、意外な掘り出し物に当たったり するものです。 |
では、劇場ですが、小劇場というだけあって、初めての人には場所が分かりづら いかもしれません。そこで、関西小劇場のメッカともいうべき扇町ミュージアム スクエアを例に取ってみましょう。扇町ミュージアムスクエア略してOMSは、 元々倉庫だったものを、85年に改装して劇場としてオープンしたものですが、 今や押しも押されもせぬ関西の小劇場発信の地です。たんにスペースとしてある のではなく、アクトトライアルと称する若手劇団への後押しを企画したり、関西 では珍しいOMS戯曲賞なる演劇賞を設けてかつそれをプロデュース上演するな ど一連の活動拠点でもあります。その運営を評価され、OMSの親会社である大 阪ガスが企業メセナ賞を取ったこともあります。 |
注目すべきは、このOMSで公演を打つことが、関西で活動する小劇場のステタ スともなっている点。旗上げしたばかりの劇団は、いつかOMSで公演すること を夢見て、今日も稽古を繰り返しているのです。当然、劇場の公演予定は、いつ もいっぱい。それも、それなりのレベルをクリアした劇団ばかりですので、ハズ レが少ないと言えます。金−日曜の週末は、ほぼ公演がありますが、開演時間等 は毎回違いますので、必ず確認してください。 |
場所は、大阪駅から地下街のホワイティ梅田を東に進み、泉の広場で地上に上が り、さらに扇町公園方向に進むと左側にあります。地下鉄堺筋線・扇町駅からが 最も近く、6番出口で地上に出て扇町公園沿いに梅田方向に歩くと、公園が切れ る信号を渡るとすぐ右手にあります。 |
OMSは、演劇公演の「フォーラム」ミニシアター映画の「コロキューム」雑貨 販売の「スーベニール」カフェレストランの「スタッフ」それに画廊の「ギルド ギャラリー」からなる集合体であり、2階から上は「ぴあ」などの事務所となっ ています。 |
さて、このOMSのフォーラムは、普通の劇場のように固定した舞台や椅子席な どはありません。公演のない時は、ただのだだっ広い空間に過ぎません。各劇団 が、それぞれ演目のコンセプトに基づいて、舞台を作り出します。何本ものスス キが揺れる舞台もありましたし、落ち葉を敷き詰めただけの丸い舞台もありまし た。四方を観客席で囲む真っ暗な舞台もありましたし、客席を相対させて中央が 新聞紙の散らばる舞台という設定もありました。とにかく、同じ空間なのに、毎 回違う印象を与えてくれる不思議な場所なのです。 |
ここで、ひとつ小劇場を観るためのコツ(ファンには当たり前のことですけど) を教えましょう。今言った通り、ここでは指定席というものがありません。客 は、開場時間になると順番に好きなところに坐るのですが、前売チケット購入時 点であらかじめ整理番号が打たれている場合と、当日に整理番号が指定される場 合があります。当日の指定は、開演1時間前、開場は30分前というのが一般的 なようです。整理番号を指定していないチケットを持っている時もしくはチケッ トを当日買う際は、出来るだけ1時間前の早い時間に劇場受付に着き、早い整理 券を入手した方が良い席を確保できるわけです。 |
整理番号札を手に入れたら、開場まではトイレを済ますなり、スーベニールを冷 やかすなり、スタッフでお茶するなり自由です。開場時刻直前に案内があります ので、外に出て番号順に並びましょう。整理番号が相手にわかるように見せなが ら前後の人と確認し合って並びます。列が整ったら案内に従い、順番に中に入り ます。 |
入り口で札を渡すと、代わりにビニール袋をくれることが多いようです。これ は、場内土足禁止(土足OKの公演の時もあります)なので、脱いだ靴を入れる 靴袋なのです。(終演後は、出口で返します)ですから、脱ぎやすい靴を履いて くること、靴下は穴が開いていたり、臭いがするものは避けましょう。編み上げ のブーツなど履いてこようものなら、自分が入り口で時間を取るだけですし、ス ムーズな入場の流れを妨げることになりますので避けた方が懸命です。 |
席は、椅子席が用意されていることもありますが、ほとんどはベンチシートと桟 敷です。簡単な座布団が敷いてあります。好みの場所に坐ったら、入り口で配ら れたチラシの束を眺めます。まず、当日公演する劇団のアンケートが目につくは ずです。開演までの時間を利用して、住所氏名などを記入しておきます。感想を 書く欄もありますが、終演後時間がなければ、感想は必ずしも書く必要はありま せん。住所氏名だけでも書いて渡せば、次回公演の案内が送られてくるはずで す。当日でも料金が前売扱いの割安になる当日清算券が同封されてくることも多 いので、これは書いた方が絶対に得です。 |
そのためにも、筆記用具は小劇場観劇の必須アイテムでしょう。あと、私は目 薬、セキ止めキャンディ、眠気押さえ用のガムが欠かせません。空腹でお腹が鳴 くような時は、劇場内はいちおう飲食禁止ですが、ゼリー状のエネルギー食を こっそり用意するのもいいかもしれません。もらったチラシを整理するA4の ファイルもあれば便利です。 |
せっかく確保した席ですが、人気劇団や千秋楽の混雑する日には、「よいしょ」 させられることがあります。よいしょとは、後から入場するお客さんのために、 席を詰める際のかけ声を指します。場内がほぼ満席となっても、まだまだ入りき れないお客さんが出た場合、劇団スタッフの「よいしょ」のかけ声とともに、少 しずつ詰めます。少し窮屈になりますが、少しずつゆずることで、新しいお客さ んが入れるスペースが出来ます。この「よいしょ」で何となく場内に連帯感めい たものが生まれるのも、小劇場空間の魅力です。 |
というわけで、無事客入れが済みましたら、あとはお芝居を楽しむだけです。 あ、そうそう開演前に、携帯電話や時計のアラームを音のしない状態にすること だけは、お忘れなく。 |
時として、劇場で思いがけない出会いがあります。今年に限っても数回は見かけ たのが、恩師でもある伊吹文男先生です。ご存知のように、先生は農学部農芸化 学科栄養化学講座を助教授から教授へと歴任されましたが、退官後の現在はさま ざまな趣味の活動をされている様子です。もとより歌舞伎など古典芸能について の造詣が深いとは承知していましたが、小劇場も熱心に観ておられるのにはびっ くりしました。 |
花組芝居やラッパ屋やM.O.P.、それにそとばこまちなどの公演などで、偶然 先生とお会いしたのですが、その時の驚きとうれしさったらありません。打ち合 わせて同じ日に観るのではなく、たまたま劇場で出会うのですから、お互いに観 劇本数の多さにあきれるのですが、東京へもよく足を運ばれる先生の身の軽さに は、私は足元にも及びません。いつに変わらぬ先生の若さは、気軽に小劇場へも 足を運ぶその自由な心意気にあるようです。観劇歴の古い先生から貴重な教えを いただくことも多く、卒業してなお「師」でいてくださる有難さを噛み締めるひ とときでもあるのです。 |