これまでに、我が研究室ではサメ軟骨を水およびエタノールにより得た抽出物中に、in vitroにおいてMMPs阻害活性を見出しました。そこで担ガンハムスターの血清および腫瘍を用いてMMPsの存在を調べたところ、血清中には見られなかったMMPsの活性型が、腫瘍に見られました。このことからMMPsは腫瘍付近で働いていることが分かりました。また、担ガン誘発ハムスターに対して、コントロール食にサメ軟骨抽出物を加えたところ、過形成、不定形過形成およびカルシノーマの減少が見られ、ガンに対する転移を抑制していることが分かりました。更に、コントロール食およびサメ軟骨抽出物食の血清を用いて、MMPsに対する阻害活性を調べたところ、サメ軟骨抽出物食を与えた方のハムスター血清に、阻害活性の増加が見られました。そのことから血液中にサメ軟骨抽出物中のインヒビターが移行したか、またはサメ軟骨抽出物中の物質が血液中のMMPs阻害物質を誘導したと考えられます。
ガンは普通の細胞と違い浸潤や転移、無限増殖自己維持のために血管新生を行うのが特徴です。ガン細胞の転移や血管新生の際、細胞を取り巻いている細胞外基質と基底膜を破壊するために、主としてマトリクスメタロプロテアーゼ(MMPs)が働いていると言われています。
軟骨組織には血管形成が成されず、軟骨魚類であるサメは発ガン物質を含んだ水槽に泳がしてもガンにならない。そのことから軟骨組織中には血管新生阻害活性物質が含まれているという発想が生まれ、実際にサメ軟骨パウダーがガン治療に用いられています。サメ軟骨から得られる食品成分としてガンの血管新生に対して機能的に働き、医薬品と異なり副作用を持たないものでありますが、投与量の多さ(1g/1kg body weight)が患者に多大な負担を与えています。またin vitroでの実験において、サメ軟骨がMMPs阻害活性を持つことが示されていますが、経口摂取によるin vivoでのサメ軟骨の腫瘍抑制効果の仕組みはよく分かっていません。
イラスト提供
サメ軟骨抽出物中のマトリクスメタロプロテアーゼ(MMPs)
阻害物質の同定およびその経口摂取による生体内での
ガン抑制効果の機能解明