小劇場という言葉を聞いたことはあっても、実際に劇場へ足を運んだ方は、それ ほど多くないかもしれません。私自身も、かつては別に興味もなく毎日を過ごし てきました。ところが、今では週末は必ず芝居を観るという日々。ちなみに、今 年は正月の第一週以外、手帳にびっしり観劇予定が入っています。少なくとも1 本、多い時には土日の昼夜それぞれに観劇して計4本。さすがに、お尻は痛く、 背骨は固まり、目はしょぼしょぼして身体にはこたえます。けれども、いい芝居 に出会った時の感動は、その疲れを吹っ飛ばし、明日を生きて行く力を与えてく れます。ひとりでも多くの人に、小劇場の楽しさを知って感激を味わってもらえ たらと願い、私の体験をお話したいと思います。 |
小劇場を観たことはなくとも、三宅裕司、西村雅彦、柄本明、久本雅美、風間杜 夫の名前は、どなたもご存知でしょう。彼らは、実はみな小劇場出身なのです。 それぞれ、スーパーエキセントリックシアター、東京サンシャインボーイズ、東 京乾電池、WAHAHA本舗、つかこうへい事務所の看板役者であり(サンシャ インボーイズは休団中、風間はフリー)現在でも忙しさをぬって舞台に立ち、活 躍しています。劇場に足を運ぶと、生の彼らにふれることが出来ます。舞台の魅 力は、一回一回やり直しの聞かないライブ感、そして役者さんと同じ空気を呼吸 している臨場感が大きなものです。それは、けっして家で寝っころがってテレビ を見ているだけでは得られない喜びです。とりわけ、小劇場は観客500人以下 の劇場で演じられることが多く、舞台の空気が間近に伝わってきます。チケット を手に入れ、劇場に出かけるというわずかな手間を払うことによって、さながら 自分が参加しているかの体験が出来るというわけです。 |
私たちの同窓生にも、小劇場で活躍している役者さんがいます。それが、社会福 祉学科第36回卒業生の有馬自由さん。所属する劇団を、かつては善人会議と称 した扉座といい、主宰する横内謙介は、市川猿之助からスーパー歌舞伎「八犬 伝」「カグヤ」の脚本を依頼された他、手塚治虫の「陽だまりの樹」「リボンの 騎士」の舞台化でも脚本を手がけるほどの売れっ子。その扉座で中堅の役者を勤 める有馬さんは、いつもひょうひょうとした感じで、関西弁のギャグを早口で繰 り出し、相手役をけむに巻いています。ハンサムな好青年ながら2枚目半の役ど ころ、フレッシュな舞台が憎めません。 |
有馬さんは、爽やかな笑顔、軽い身のこなし、小気味良い台詞まわしが買われ て、他劇団への客演も多くこなしていますが、扉座としての次回公演は、99年 の春から初夏とかなり先。紀伊国屋サザンシアターと新神戸オリエンタル劇場で 行われる予定で、いくつか地方都市も回るとか。残念ながら、タイトルやキャス ティングは未定ですが、元気な有馬さんを見かけたら、ぜひ応援したいもので す。 |
それでは、扉座公演は先の楽しみとして、他にどんな小劇場公演を観ればいいの か、劇場の場所やチケットの買い方など色々な疑問が出てきたかもしれません。 「ぴあ」に代表される情報誌を買って、それを参照するのが一番ですが、最近の 新聞各紙も週末の夕刊の文化欄はかなりの充実ぶり、毎日家に配達されるこれを 見逃す手はありません。丹念に見ると、ていねいな案内記事が掲載されているこ とが多いものです。読んでぴんと来た公演があれば、思い切って出かけてみま しょう。 |
小劇場のいいところは、たとえ前売りチケットが完売されていても、よほどのこ とがない限り当日券で入場できることです。NODA・MAPや第三舞台などそ うそうたる劇団でも毎回相当数の当日券が出ます。もちろん、その際、立見は覚 悟しなければなりませんが、運が良ければ招待客に用意された特等席が回ってく ることもあります。そもそも、指定席がなく全自由の桟敷席ばかりで、入場順に 好きな場所に坐るというシステムも、劇場によっては当たり前とされています。 大きなキャパシティの劇場で演じられるわけではありませんので、要は役者の気 持ちと一体になり、観客も一緒に劇場の雰囲気を楽しむことです。ストーリーが 多少わかりづらくても、気にすることはありません。なあに、作者だって良くわ からず書いていることもあるそうですから。ギャグをひとついただいて帰ると か、可愛い役者さんに目をつける、といった邪道もありでしょう。お金を払って 観ているのですから、他人に迷惑をかけない限り、自分なりに楽しめばいいので す。 |
関心を持って見ていると、深夜テレビや雑誌等でも、けっこう劇団公演の予定が 得られます。また最近では、かなりの小劇場劇団もホームページで情報発信して おり、個人で観劇の感想を書き込むページも増えているようです。数限りなくあ る小劇場の公演をすべてカバーすることは出来ず、こういったファンの生の声 は、観劇予定を決めるのに大変参考になります。実は、私もあるホームページに 間借りするカタチで、毎月のおすすめ芝居を載せてもらっています。 |
大阪はキタの劇場の所在やスケジュールが内容の中心ですが、謎のおすすめ人の コーナーで、4人の担当者がそれぞれに推す偏見と独断に満ちたおすすめ芝居の バラエティさが、ここの売り物でしょう。本業は、某情報誌編集者、翻訳家、大 手コンピュータ会社に勤務のおすすめ3人とも、それぞれ一筋縄では行かない芝 居好き。そこに私を含めての4人のおすすめから、関西小劇場の傾向がひととお りわかると思います。 |