IFT10 Annual Meeting & Food Expo

July 17-20, 2010

Chicago, IL

McCormick, South Hall

 

京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 応用生命科学専攻

博士前期課程 2回生 食品科学研究室

清野 珠美

 


 食物は私達ヒトが生きていく上で欠くことのできないものです。私達は自らを生存させるために食品を摂取していますが、時に食品はヒトを生存させる以上の効果をもたらしてくれます。例えば、コラーゲンを摂ると肌や関節の状態が改善するなど。しかしこのような食品の機能性が実際にある一方で、食品の何の成分が、どのようなメカニズムで効果を表しているのかが不明であることが多くあります。私の所属する食品科学研究室では、機能性を持つ食品から活性成分を解明し、その成分を「食品」として摂取することで効果を得るための研究を行っています。

 私の研究対象は「日本酒」です。“酒は百薬の長”と言われていますが、その科学的根拠は明らかではありません。本研究によって、日本酒に肝炎を抑えるという物質が含まれていることを見出しました。もしこの物質が日本酒醸造により生成されるものなら、これを応用し、肝炎を抑える病者用食品を作ることが出来るかもしれません。“酒は百薬の長”と言われる理由の1つを明らかに出来る、大きな一歩であると私は考えています。日本の伝統食品である日本酒を御年配の方から、最近日本酒離れしているという若い方々まで広く親しんでもらうため、伏見という伝統的な酒処のあるこの京都の地から、日本酒の機能性を発信していけたらと思います。

 


今回の研究内容と結果を、シカゴで行われたIFT Annual Meeting & Food Expoにて、ポスター発表させていただきました。その時の様子をお伝えします。

 

Title : Pyroglutamyl peptides in Japanese rice wine 日本酒中のピログルタミルペプチドに関する研究

 

Abstract :

  Japanese rice wine is prepared by traditional (Kimoto) or modern (Sokujomoto) techniques. Even same materials are used, taste and flavor of the product depend on preparation method. Our previous study demonstrated that Japanese rice wine prepared by Kimoto has higher pyroglutamyl peptides than that by Sokujomoto. However there is no report on structure of pyroglutamyl peptides in Japanese rice wine. Objective of the present study is to identify the structure and distribution of pyroglutamyl peptides in Japanese rice wine.

  Pyroglutamyl peptides in Japanese rice wine were recoverd in a non-absorbed fraction of strong cation exchange chromatography and fractionated by size exclusion chromatography (SEC). Pyroglutamyl peptides in SEC fractions were digested with pyroglutamate aminopeptidase and followed by derivatization with phenylisothiocyanate (PITC). The PTC-peptides were resolved by reversed phase HPLC. Isolated PTC-peptides were analyzed by Edman sequencer and identified as pyroGlu-Leu , pyroGlu-Gln and pyroGlu-Glu. PyroGlu-Leu has been demonstrated to suppress galactosamine-induced hepatitis in rat. The content of pyroGlu-Leu increased through brewing processes and was distributed widely in Japanese rice wine prepared by different suppliers.

  In addition, PyroGlu-Leu can be concentrated in an acidic fraction by ampholyte-free isoelectric focusing (Autofocusing). This fraction can be used as food ingredient with potential for moderation of hepatitis.

 

和訳:

 日本酒は古くからある伝統的な製法 (生酛造り) と近代的製法 (速醸酛造り) がある。同じ原材料を用いても、製造法によって味や香りが異なる。我々の研究では、生酛造りの日本酒の方が速醸酛造りよりもピログルタミルプチドを多く含んでいることを示した。しかし、日本酒中のピログルタミルペプチドの構造等については、今まで研究がない。そこで日本酒中のピログルタミルペプチドの構造と分布を明らかにすることを、本研究の目的とした。

 日本酒中のピログルタミルペプチドは強カチオン交換樹脂非吸着画分中に回収され、サイズ排除クロマトグラフィー (SEC) で分画された。SEC各画分のピログルタミルペプチドはピログルタメートアミノペプチダーゼで処理された後、フェニルイソチオシアネート (PITC) で誘導化された。誘導化されたフェニルチオカルバミル (PTC) ペプチドは逆相HPLCで分離された。分離されたPTCペプチドをエドマン分解ペプチドシーケンサーで分析し、pyroGlu-LeupyroGlu-GlnpyroGlu-Gluを同定した。この中でpyroGlu-Leuはラットのガラクトサミン誘発性肝障害を抑制することが明らかになっている。pyroGlu-Leu量は日本酒醸造段階毎に増加し、異なる製造元による日本酒でも広く含まれていた。

 さらに、pGlu-Leuampholyte-free isoelectric focusing (Autofocusing) によって酸性画分に濃縮された。この画分は肝炎軽減の可能性を持った食品成分として用いることが可能である。

 

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ポスター発表の様子。

 

 日本酒の作り方等を掲載したこともあり、「Sake!」と言いながら興味を持って話しかけてくれる人もいました。日本酒が、日本だけでなく海外でも知れ渡っているということを感じました。

 発表に臨むため、ポスター内容を英語で説明できるように文章を考えて練習していましたが、ポスター発表は相手との質疑応答が主であるので、相手の英語をなかなか聞き取れない場面が多く、良い討論が出来なかったと感じました。自分の研究を多くの方々に伝えるためには、国内外で広く発表していく、そしてそのためには英語というスキルが必須であることを実感しました。

 気になったのは、アジアの方々も多く発表されていましたが、韓国や中国の学生が多く、日本の学生はほとんど見かけなかったということでした。

 

 以下、学会会場の様子を載せていきます。

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学会が行われたのは、シカゴにあるアメリカ最大規模の総合コンベンションセンター「McCormick Place」。

(これでは建物の大きさが伝わりにくいかもしれませんが、ものすごく大きいんです!)

 

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ポスターセッション会場の隣では、大規模なFood Expoも開催され、大変な賑いを見せていました。

日本の企業も多く出展されていました。(右写真の左奥に味の素のブースが見えます。)

 

 


そして、およそ5日間の滞在期間もあり、シカゴの街を散策しました。

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シカゴでは終始“晴れ!”でした。青空の中にそびえ立つビルの数々に圧倒されました。

CIMG3466.JPG右写真は「シカゴ・ウォーター・タワー・プレイス」。

 

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街中でなんという大クラッシュ事故!!!……と思いきや、なんと映画の撮影だったのです。(左写真)

その時いたお兄さん。何の映画か分かるでしょうか?? (右写真)

 

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今回、御同行させていただいた研究室の皆様。(左から朴助手、研究員の重村さん、佐藤教授)

3人とも英語が堪能で、私は終始頼りっぱなしでした。

それなのに寝坊してしまってスイマセン…(;´∀`) 大変お世話になりました!

 


    京都府立大学大学院 食品科学研究室 (研究室TEL072-723-3503)

       教授  :佐藤 健司  (mailk_sato@kpu.ac.jp)

     准教授  :中村 考志

       助手  :朴 恩榮