壬申の乱に勝利し、再び同様な戦争が起こらないように天武天皇は権威を固める態勢を取った。『古事記』の序はその勝利と天統の即位を述べた後、天皇の知恵と歴史に対する見識を称える。『古事記』による「歴史」は天下の政治を委託された天皇を中心に、大臣が「政」を行う世界を描いている。

天孫のニニギノミコトは新しく作られた葦原の中つ国に降臨した後でも、国を平らげる必要は残っている。『古事記』において天皇の大臣が任ざれる「政」の用例はどれも国の平定の場面に出る。神の前で行う政は、武力による積極的な平定の追求と共に宗教的な権力も求められる。

神功皇后や天照大神を含め、消極的な女性の役割は男性の積極的な地位に従属している。また『古事記』は推古天皇までの最後の十代を皇統譜に制限することによって、歴史的な女性支配者の役割を触れる必要性を結果的に避けている。このように、『古事記』は天皇中心の平和的な政治を目標としている一方、暴力と戦争は必然的手段となっている。